コラム

高ROA企業に学ぶ現代のビジネスモデル

2018-07-03掲載

企業経営の指標としてROA(総資産利益率)というものがあります。これで企業経営の巧拙を測ることができると考えられています。現代の日本企業で“高ROA”を上げているのはどのような企業なのかを調べてみようと思います。

ROAとは聞きなれない指標かもしれません。ROE(自己資本利益率)という経営指標をご存じの方は多いでしょう。ROAとROEとの違いは以下のようになります。

ROA=売上高純利益率×総資産回転率
=(純利益額÷売上高)×(売上高÷総資産)
ROE=売上高純利益率×総資産回転率×財務レバレッジ
=(純利益額÷売上高)×(売上高÷総資産)×(総資本÷自己資本)

売上高純利益率は企業の収益性、総資産回転率は企業の効率性、財務レバレッジは負債の利用度を表します。ROAとROEの違いは財務レバレッジを乗じるか否かです。これまで日本企業はROEを高めることに努めてきましたが、近年では資金調達した負債の利用度すなわち借金をしてでも活発な企業活動をしようという側面を取り除き、企業が巧く稼ぐ力をシンプルに表すROAも重視されるようになりました(*1)

解説はここまでにして、まずは日本企業の業種別ROAマップを見てみましょう。

                                                 図表1 業種別ROAマップ

1※1:会社四季報2018年3集を用いて筆者作成。東証上場企業を対象とし、赤字である鉱業・海運業と金融関連業(銀行業・保険業等)は除外。2018年3月期を中心に年度決算数値を使用して算定。
※2:サービス業のROA0.5%(総資産回転率0.1倍、売上高純利益率5.0%)と突出して低水準にあるが、これはサービス業に日本郵政が含まれている影響が大きい。日本郵政を除くサービス業はROA4.3%(総資産回転率0.7倍、売上高純利益率6.0%)。

図表1のマップは横軸に売上高純利益率、縦軸に総資産回転率をとっています。両者を掛け合わせた数値がROAです。日本企業のROA目標値が概ね5%なので、ROA5%ラインを赤線で示しています(*1)。横軸と縦軸の掛け算なので反比例の双曲線になります。ROA5%ラインより右上の領域が目標値越えの高ROA領域、左下の領域が低ROA領域と言えます。

例えば医薬品業界は多額の研究開発投資を行い、その研究開発費を固定資産として計上するため、企業の総資産額が大きく、総資産回転率(売上高÷総資産)は低くなる傾向があり、開発に成功した新薬を高値で販売するため、売上高純利益率(純利益÷売上高)は高くなる傾向があります。一方小売業界は薄利多売が基本であり、在庫を残さないことを重視するため総資産回転率は高くなりますが、逆に消費者向けの価格競争が厳しく利益は薄いため売上高純利益率は低くなる傾向があります。しかしその2つの業界各々に稼ぎの巧い巧くないがあり、その業種内の稼ぎの巧拙を各企業のROAで把握できるというわけです。

日本主要企業の全業種の単純平均はROA3.8%、総資産回転率0.8倍、売上高純利益率5.2%でした。これらの数値が日本企業の一つの目安と言えそうです。

次に高ROA企業のランキング見てみましょう。

                                                    図表2 ROA上位10社

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※1:会社四季報2018年3集を用いて筆者作成。東証上場企業を対象。総資産100億円以上を対象とし、特別利益で一時的にROAが上昇した企業は除外。2018年3月期を中心に、年度決算数値を使用して算定。
※2:筆者による分類。

日本企業のROA平均3.8%と比べると、各社突出した利益率を計上していることが分かるかと思います。そして10社のビジネスモデルを大まかに分類すると、ゲームコンテンツ系とソリューション系の2つに分けられます。

ゲームコンテンツ系には2位のガンホー、7位アカツキ、9位エイチームがあります。スマホゲームはヒット作が出ると業績が急拡大する特徴があります。「パズドラ」を手掛けるガンホーは、2012年2月に「パズドラ」をリリースしましたが、リリース前の年間売上が258億円だったのに対し、リリース後は1,630億円と売上が約6倍になりました。スマホゲーム等のゲームコンテンツは量産費用が少額で済むため、多くのコンテンツをテスト的にリリースし、ヒット作でヘビーユーザー確保や他のマーケット(TVアニメやコミック、ホビー、イベント等)への横展開で収益の最大化を図るというビジネスモデルをとります。

一方、残り7社のソリューション系の特徴は、①製造サイドではなく、最終購買者に近い位置にいること②実物の販売より購買者の課題解決の提供がメインであることが挙げられます。

例えば1位のカカクコムが運営する「価格.com」や「食べログ」は最終購買者に対して商品価格の比較“情報”や飲食店の口コミ“情報”を提供することで、最終購買者がどの商品をどの店から購入するか、どの飲食店に行くか、という最終購買者の問題解決に資する情報を提供しています。また3位のスタートトゥデイは衣料品ネット通販のプラットフォーム「ZOZOTOWN」を運営していますが、衣料品を製造するのは「ZOZOTOWN」に加盟しているメーカーであり、スタートトゥデイは加盟メーカーから販売手数料や加盟料を受け取ることを収益の柱としています。スタートトゥデイの提供している価値は、最終購買者の衣料品購入行動について、多様な衣料品“情報”を提供することです。また、最近では既存メーカーがニーズを満たしていないと判断して、最終消費者の体のサイズを入力して自分の体にぴったり合った服を注文できる、というサービス「ZOZOスーツ」も始めています(*3)。

カカクコムやスタートトゥデイは自社で製造設備を持っていません。実際にカカクコムの総資産に占める設備の割合は2%、スタートトゥデイでも8%しかありません(*2)。加えてスタートトゥデイの場合、衣料品の在庫は基本的に加盟店メーカーが保管するため、在庫すら抱えないビジネスモデルになっています。このようにカカクコムやスタートトゥデイなどのソリューション提供企業は設備や在庫等の費用負担が少なく、またソリューションは実物製品に比べて他社の模倣が困難なため、利益率が高くなる傾向があります。それは最終購買者の課題をよく知り、ソリューションサービスを最終購買者に近い位置から提供できている、それが高利益率の源泉、ということです。

それは逆に言えば、製品を製造販売するだけで最終購買者の課題が解決していない場面が世の中には多々あり、その課題解決でお金がとれる(アクセス数の多さを利用した広告収入も含む)ということを意味しています。陳腐化しないサービスを維持し続けること、最終購買者の課題を把握し続けること、もソリューション企業同士の重要な競争ですが、製造業から見れば、多大な設備投資をして商品を製造したのに大きな利益額をソリューション企業に持っていかれて悔しい、という見方もあるでしょう。製造業の立ち位置は、10年20年前よりもずっと難しいものになったと思います。最終購買者により近い商流の事業に進出して、データから課題を把握して商品開発に反映するなど、日本のものづくり企業にもさまざまな取り組みが行われています。

重要なことは過去の成功体験に囚われることなく、現状を把握し、将来の事業環境に合わせたビジネスモデルを構築・運用していくことだと思います。 了

(*1) 「「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係~」プロジェクト(伊藤レポート)」(2014年8月)では日本企業の目標として最低限8%を上回るROEが提唱されている。また、「未来投資戦略2017」では2025年までに欧米企業のROAに遜色ない水準を目指すという目標が新たに追加された。2017年4月から2018年3月の米国(S&P500)のROA平均が5.4%、欧州(BE500)のROA平均が4.7%である。当コラムでは米国と欧州のROA平均の間をとって、ROA5%が日本の目標値と設定している。
(*2)有形固定資産÷総資産で算定。2018年3月末時点の数値。
(*3) https://www.starttoday.jp/news/20171122-3175/ 「スタートトゥデイ、採寸用ボディースーツ「ZOZOSUIT(ゾゾスーツ)」を無料配布 本日より予約開始」(2017年11月22日)