コラム

多様な選択肢を用意することが相手の満足度を高める、という思い込み

多様な選択から自分の好みにあった製品・サービスを選択できることは、生活の質を上げていることは確かだが、幸せなことなのだろうか。

2017-01-27掲載

われわれは、毎日何らかの選択をしながら生活をしている。進学や就職、結婚、住居の購入といった大きな選択以外にも、今日のランチは何を食べようか、今週末は何をしようか…と小さな選択の連続だ。ビジネス街に勤めていれば、ランチひとつをとっても数ある店のなかから一店を選び、また選んだ店のメニューから自分の好みにあった食事を、その日の気分やサイフ事情から自由に選択できることは、とても便利なことだと思う。世の中には、消費者の要望にあわせて多様な製品・サービスを提供しているものがあふれている。多様な選択から自分の好みにあった製品・サービスを選択できることは、生活の質を上げていることは確かだが、幸せなことなのだろうか。

幸せと感じるかどうか、満足をするかどうかにはもちろん個人差があるが、アメリカの心理学者バリー・シュワルツ(Barry Schwartz)氏は、その著書[1]のなかで、多様なものから自由に選択できることは、人を必ずしも幸せにはせず、満足度が高くならないタイプの人が多数いると提言している。


あなたは、家の購入、旅行パッケージの購入、車の購入など、オプションやバリエーションを自由に組み合わせることができる、値が張るものの購入を経験したことはないだろうか。旅行の自由オプションを例にとると、飛行機や電車の時間・座席のクラス、泊まるホテル・部屋のグレード、旅行中に訪れる観光地等を自由に設計し、まとめて提供できますといったサービスを指す。実際に購入を検討する際は、予算と日程に制限はあるが、それ以外は、あなたが自由に決めていいものだとする。こういったサービスがあったとして、あなたは本当に自由に設計できるだろうか。店舗での購入なら、オプションの説明をひととおり受けた後「○○地域なら、どういった旅程が人気ですか?」「予算は○○円くらいですが、おすすめプランはありますか?」と聞きたくならないだろうか。選択肢が多ければ多いほど、選ぶための知識と選ぶために費やす時間が必要で、そして最後は決断するという心理的負担がある。それならば、旅行地域別に大体の旅行プラン(「スペイン・フランスの旅」「北欧3か国をめぐる旅」)に、日程別、予算別グレードのオプションがあれば、多くの人はその中から選ぶ方が、迷いもなくむしろ楽だと感じるのではないだろうか。

また、自分の好みで選択を行い、そのプランを購入・体験して、その場では満足していたとしても、選ばなかった別のプランを思い出し、その別のプランを選んでいればもっと楽しめたのではないかと想像をめぐらせ、「別のプランだったら…」という後悔の気持ちを、選択したプランの満足度から差し引いて自分の選択を評価してしまうという心理状態になることがある。そして、捨てた選択肢の数が多ければ多いほど、差し引かれる後悔の気持ちが多くなってしまう。逆に言うと、捨てた選択肢が多いほど、また、魅力的であるほど自分の選択したプランで満足するための基準を上げてしまうことになる。たとえば、めったに開催されない自分の趣味のイベントの日程が重なってしまった場合、あなたはどちらかを選ばなければならない状況になる。そうすると「楽しみなAイベントをあきらめてまで行くBイベントなのだから、ものすごく楽しいはずだ」と、行く方のBイベントの満足度の基準を高めてしまい、結果Bイベントでも十分楽しめたはずが、自分の選んだ方は失敗だったのではないかという心理状態に陥ってしまうような状態だ。ちなみに経済学では、複数の選択肢の中の次善の選択から得られたであろう利益のことを機会費用[2][3]といい、最善の選択をしていたとしても、その最善の選択の利益から機会費用として、次善の選択で得られたであろう利益を差し引く考え方がある。


冒頭のバリー・シュワルツ氏は、対処法を著書でいくつか述べているが、そのひとつに普段の生活に満足できていないのであれば、得られる幸せ、満足に対して期待値を上げすぎているからではないか、ということを指摘している。たとえば、自分の中で優先順位の高くないことは自分で選択する前に簡易なルールをつくり自動で選択の幅を狭めた上で生活をする等、選択にどう向き合うかをアドバイスしている。

一方で、自身の選択だけではなく、あなたが人に選択を迫る場面も多くないだろうか。仕事の相手であれ、家族や友人であれ、相手をもてなし満足度を上げたければ、相手のことを理解できていることが前提ではあるが、選択肢をしぼるか、または思い切って自信のあるものひとつだけを提案してみるというのも有効な方法かもしれない。



参考文献・原典
[1] バリー・シュワルツ(著)・瑞穂 のりこ(訳)(2012)『なぜ選ぶたびに後悔するのか オプション過剰時代の賢い選択術 新装版』武田ランダムハウスジャパン。
[2] Friedrich von Wieser(1889)『Der natürliche Wert』。
[3] N.グレゴリー マンキュー (著)・足立 英之 (翻訳)他5名(2014)『マンキュー入門経済学』東洋経済新報社。