コラム

発明はスター研究者に偏るのか?

2019-01-11掲載

 日本では近年、1年間に約30万件の特許出願がなされ、そのうち約20万件が登録されている(*1)。それらの特許情報が記載されている特許公報には、出願人(主に企業)だけでなく、発明者(主に企業の研究者)も記載されている(*2)。

 ある企業の数年分の出願の発明者欄を眺めてみると、ある発明者が多数の特許出願を行っていることもあれば、別の発明者は少数の特許出願しか行っていないことに気付く(*3)。出願件数や登録件数の多い発明者を、仮に「上位の発明者」と呼ぶことにすると、各企業の出願件数や登録件数は、上位の発明者によってどの程度占有されているのだろうか。つまり、発明の偏り具合はどの程度あるのだろうか。また、もし少数の上位の発明者によって多くを占有されているとしたら、それは、その上位の発明者が所属する企業にとって良いことなのだろうか。

 そこで、まずは、発明の偏り具合を簡易的に調査した。今回の調査では、CONCEPTS ENGINEの特許ランキング機能を用いた(*4)。製造業の業界(各々異なる素材製造業界3つと、完成品製造業界1つ)、特許権者(=日本の大手企業)、当該特許権者における登録件数が上位5%の発明者による占有率等をまとめて表1に示す(*5)(*6)。赤字は、各業界において上位5%の発明者による占有率が最も大きい箇所を示し、青字は、各業界において上位5%の発明者による占有率が最も小さい箇所を示す。

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 素材α業界、完成品δ業界では、上位5%の発明者による占有率の最大値と最小値の差(赤字と青字の差)は約6ポイントであったが、素材γ業界ではその差は約10ポイントとやや大きくなり、さらには素材β業界ではその差は約20ポイントとより大きかった。

 発明の偏り具合に大・小があると判明した場合、どのように活用していけば良いだろうか。

 例えば、買収・合併対象の企業が、発明の偏り具合が大きい企業だと判明した場合、必ずしもその企業全体を買収・合併する必要はなく、一部の上位研究者・研究グループを引き抜くだけで、今後の研究開発成果を十分に得られるかもしれない。

 自社が、発明の偏り具合が大きい企業だと判明した場合はどうするか。もしかしたら、スター研究者と呼ばれるような研究者がいて、華やかに見えるかもしれない。しかし、上位の研究者に研究開発成果が集中しているため、上位の研究者を引き抜かれた場合の研究開発への影響が同業他社より大きくなりやすい。そのため、上位の研究者の人事評価を高くして他社に引き抜かれないようにするといった対策が必要になるかもしれない。
あるいは、上位の研究者への集中度を下げて偏りをなくすために、1回目の登録や特許出願の報奨金を増額し、多くの研究者が特許出願を行うように動機付けをするといった方策も考えられる。

 逆に、自社が、発明の偏り具合が小さい企業の場合は、スター研究者と呼ばれるような研究者はいないかもしれないが、上位の研究者の引き抜きによる影響が比較的小さいため、仮に引き抜きをされても研究開発が停滞しにくいといった利点があるかもしれない。

 ここまで、表1の企業間では、発明の偏り具合に差があるとして話を進めて来たが、別の視点からの見方についても述べる。発明の偏り具合に差があるとはいえ、表1の企業の上位5%の発明者による占有率の幅は20~40%程度で、50%にも75%にも行かず、25%程度の企業が多い。流通業やサービス業では、上位者すなわちエース従業員に売上・利益がもっとずっと偏在しているとも聞く。また、世界の富の95%は上位5%の人が握っている、といった物言いもあるようだ。それに比べると、表1のような日本の製造業では、各社・各業界での発明の偏り具合の差はさほど無く、ある種の法則と言えるほど均質化・平準化しているようにも思える。表1以外の他の製造業もさらに調査する必要はあるが、もしかすると、日本の製造業では、特定の発明者に偏らず、依存し過ぎず、どのような研究者が退社したり入社したりしても、社内の設備・教育による技術的・知的なサポートにより、ある程度の研究開発の成果を多くの研究者が挙げられるようにマネジメントしているのかもしれない。


(*1)特許行政年次報告書2018年版 第1章 国内外の出願・登録状況と審査・審判の現状。 https://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/nenji/nenpou2018_index.htm
(*2)特許法64条2項3号、66条3項3号によって、発明者の氏名等を特許公報に記載することが法律上規定されている。
(*3)発明者本人が出願するのではなく、その発明者の所属している企業が出願している場合が多いが、便宜的に「発明者が特許出願を行っている」等と表現した。
(*4)http://www.conceptsengine.com/patent/ranking
(*5)特許権者としては、各業界の日本の大手企業を対象とした。集計の便宜上、特許権者は筆頭特許権者のみを、発明者は筆頭発明者のみを対象とした。登録件数が上位5%の発明者とは、対象の特許権者において、登録件数が多い上位5%以内の発明者のこと。
(*6)筆頭頭発明者にはプロジェクトリーダーを記載するとしている企業もあるかもしれない。そのため、筆頭発明者だけでなくすべての発明者についての分析を行うほうが好ましい。また、登録件数のみで判断したが、質による判断ができる場合は、質も加味したほうが好ましい。
(*7)各特許件者の登録件数規模および調査データベースの収録年数の都合上、対象期間は揃っていないが、対象期間を揃えるのが好ましい。
(*8)M社とN社は、登録件数上位4%の発明者による占有率を算出した後、その値に5/4を掛けて求めた推測値。