コラム

身の回りの数字と体感とのずれ、その見える化の可能性

2018-05-07掲載

 都会で過ごす時間は早い、逆に田舎はのんびりした時間を過ごせる、という話をよく聞く。これに似た話で、自分の好きなことをしている楽しい時間は早く過ぎるが、誰かに怒られたりする辛い時間は過ぎるのが遅いという話もよく聞く。また、子供の頃はいつまで遊んでいても日が落ちなかったが、働き盛りである30~40代だと1日があっという間に過ぎていく、というような話もよく耳にする。

 実際に時計で計測される時間と、体感する時間とには、何か違いがあるのだろうか。心理学の知見によれば、人の時間経過に対する注意や身体的代謝、体験される出来事の数、感情の状態などの要因が、個別の状況に対して影響し、体感時間が伸縮したように感じるのだそうだ*1。冒頭の例で言えば、誰かに怒られているときは、この時間が早く終わらないかと時間経過に注意が多く向くから5分が1時間にも感じるし、楽しいときはほとんど時間経過など気にしないからあっという間に時間が過ぎ去っていくように感じる。また、子供と大人の体感時間の差にはジャネーの法則というものが一般的に知られている。人生の体感時間は年齢の逆数に比例する、すなわち年齢とともに体感時間は漸減していくという*2。この説によれば、20歳でおよそ人生の半分の体感時間が経過しているそうだ。

 かいつまんで時間に関する知覚のずれを、体感と実際の数字とのずれの一例として紹介した。そのように考え始めると、私たちは日々の生活で多くの数字に囲まれていること、また体感と実際の数字がかみ合わないことが多いこと、に気づく。

 例えば、天気予報だけでも、気温、降水確率、風速、花粉量など、たくさんの数字がテレビやラジオ、インターネットを通じて日々もたらされる。その一方で、気温でいえば冬と夏の「18℃」は全然違ったものだと感じるし、降水確率で言うとなんとなく40%くらいでも降らない気がするが、降るときは降る。また、宝くじが当たる確率もそうであろう。非常に当選確率が低く、期待値も高くないのに「一等が当たる」気がしてついつい購入してしまう。こうした実際の数字と知覚とのずれは、はなはだ大きいと言わざるを得ない。


 そこで言うと、岡田斗司夫氏の「レコーディング・ダイエット」の話は、自分自身に数字を意識させる優れた方法だと感じる*4。岡田氏が実行した内容は、自分が1日の間に食べたものを記録し、摂取カロリーや食事回数を記録するという単純なものだった。ただ、自分が実際に食べた量と適正な食事量とが数字で定量的にわかるから、感覚と数字との齟齬を埋めやすく、数値化の効用を得やすい。岡田氏は1年半で約50kgの減量に成功したというが、その後約25kgリバウンドしたこと、数字を意識していても食事の習慣を律し続けるのは難しいこと、を岡田氏自らが述べており、数字の実感だけでは人の行動を修正しきれない事象もあるようだ*5。


 筆者も感覚だけで行動したばかりに痛い目を見て、改善を図ったことがある。

 先日、東北にある実家に帰ったときのことである。1日が終わり疲れたなぁと、風呂に入ろうとしたら、お湯が沸きすぎて熱くて入れなかった。実家の風呂はたいぶ年季が入っており、ボイラーで直接お湯を沸かし、そのお湯を風呂に供するシステムである。如何せん最新式のそれと違って温度制御がされていない。そこに加えて、東北の冬、寒くないようにと、勘でボイラーの湯沸かし量を調整するから、過剰に湯を沸かし気味になる。結果、沸かした湯が熱すぎて、試しに足を入れてみた瞬間に、足が真っ赤になった。とてもじゃないが、「いい湯だな~」と入れたものではなかった。湯をかき混ぜたり、水を入れてみたりと試行錯誤して、お湯の温度を下げようとした。だが、なかなかお湯の温度も下がらない。そんなこんなで風呂にも入れず、10~20分程度風呂場で裸のまま寒い思いをした。

 そんなことがあり、翌日思い立って、文明の利器を購入してきた。デジタル温度計である。もともと入っている水の量、湯沸かし前後の温度、そして湯沸かしする具合を3点ほど変えて、実験してみた。点を結んで直線を書き、そのグラフを湯沸かし器の前に貼る。実際、温度を制御できた幅は±2度くらいの精度に過ぎず、家族の各人が感じる最適な温度の調整までは至らなかったが、非常に熱い風呂にもぬるすぎる風呂にも入らなくてよくなった。この一件を経て実家の家族の生活の質が大きく向上した気がしている。


 実際の数値と体感とのずれ、そのずれの修正に関する話をしてきた。物事や現象を数値化することの効用は大きく、体感と組み合わせることができれば、高い利便性につながる可能性がある。だが、何の量を数値化するか、そもそも数値化できるのか、といった部分の指針が立たないことも多い。まずはスタートとして、自分が何かをする時間、温度、距離などを「見える化」してみる、もしくは「見える化」するクセをつけてみるのはどうだろう。これまで気づかなかった法則性、生活の不便さ改善のヒントが隠れているかもしれない。

 私は現在、技術や市場の動向調査を通して、ビジネスや技術開発の指針を示す仕事をしている。その指針を得るために、これまでの知見から仮説を立て、それを検証していくことが多いが、それだけではなく、実際の事物や現象の計測・数値化、数値と体感のずれなど、実際に触ってみて気付きを得る場面も少なくないはずだ、ということも意識していきたい。


引用文献
*1: 日本心理学会HPより https://psych.or.jp/interest/ff-36
*2: ジャネーの法則:Pierre Janet, L’évolution de la mémoire et de la notion du temps, A. Chahine, 1928, p.515。を引用文献として、例えば『That’s 雑学11』(Arakawa Books)、『大人の時間はなぜ短いのか』一川誠著 2008年 (集英社新書)など
*4: 『レコーディング・ダイエット決定版』 2010年 文春文庫
*5: テレビ番組「アウト×デラックス」(フジテレビ系列、2015.1.22放映)での同氏発言の再録(2015.1.23 Exciteニュースより)など
https://www.excite.co.jp/News/cinema/20150123/Crankin_3493003.html