コラム

特許文献の調査上手は釣り上手!?

特許出願の前に行う先行技術文献調査を行いながら、ふと感じることがあります。先行文献調査は、釣りによく似ていると。

2015-10-21掲載

 ブルブルブルッ。釣竿を握る手に不意に伝わるその振動ほど、釣り人を興奮させ、釣りを一層病みつきにさせるものはないでしょう。広大な海を前にして流れる一見静かな時間。しかし釣り人本人にとっては、決してそれは穏やかな時間ではなく、見えない相手(魚)の動きを想像しつつ相手に気付かれずにそっとおびきよせようとする緊張の連続かもしれません。

 特許出願の前に行う先行技術文献調査(以下、先行文献調査)を行いながら、ふと感じることがあります。先行文献調査は、釣りによく似ていると。

 先行文献調査は、特許出願を予定する発明に特許性(新規性、進歩性等)があるか否かを事前に把握するための調査です。発明の特許性を事前に把握することは、その出願をするかしないかの判断に役立つばかりでなく、その発明をなるべく広く保護する上で考慮すべき材料ともなります。調査を依頼した人は、調査結果によって自分の開発技術のレベルの高さに一層自信を持つこともあるでしょうし、競合他社が似た技術をすでに開発していることを知って唇をかむこともあります。

 こういった先行文献調査を行う際の準備段階では、その発明の特許性判断に関わる文献がどの辺の技術領域に存在しているかをまずイメージする必要があります。これは、釣りたい魚がいる海域を魚群探知機で把握することに似ています。

 調査対象となる技術領域がいったん定まると、次は目的の文献を捕獲するための「仕掛け」を準備しなければなりません。先行文献調査においては、使用する文献データベースの選択、検索キーワードや分類コードといった検索条件の設定等が、その「仕掛け」に相当します。因みに、「分類コード」とは、技術内容に応じて各特許文献に割り振られた郵便番号のようなものです。

 最初に設定した条件で目ぼしい文献が見つからない場合には、その条件を調整し、再度検索を試みます。この作業はまるで、思惑通りに釣りたい魚が釣れない場合に、当初選んだ餌から別の餌に変更したり、タナ(魚が泳いでいる層)の位置を合わせ直したりして、狙いの魚を捕えようと再チャレンジするのによく似ています。

 知識や経験が乏しいと、仕掛けのやみくもな変更によってかえって狙いの文献から遠ざかってしまう場合もあります。狙う方向を見失うことなく仕掛けを自在に調整し直せる力。この力こそが、優れた先行文献調査を行う上で最も基本的かつ重要な力です。

 先行文献調査と釣り。この2つを比較して決定的に異なることを挙げるとすれば、それはターゲットを捕えることができなかった日の宴かもしれません。釣りにおいて1日の釣果がゼロならば、その日はヤケ酒となることでしょう。しかし、先行文献調査において捕えた文献がゼロならば、その日は祝い酒となるかもしれません。調査対象発明に近い文献が存在しないことは、その発明が優れた特許性を持っていることを意味するわけですから。(了)