コラム

近未来を描いた創作物がイノベーションに与える影響

私たちはSFを中心とした、映画、ドラマ、アニメ、小説、漫画などの創作物から「未来の生活ようなもの」を見ることができます。

2016-06-28掲載

 今は当たり前のことでも、10年前、20年前の生活を振り返って比べてみると、イノベーションによって新製品・新サービスが世に出て、意識せず生活が変化しているといったことが、ひとつは思い浮かぶのではないでしょうか。そして今の私たちは、ふとした場面で、もっと便利になればいいのに、もっと健康で安全な暮らしができればいいのに、と思うことも少なくありません。たとえば、気軽に宇宙旅行ができれば…、満員電車や渋滞する道を車に乗らなくても朝すぐに学校や会社に着ければ…、○○という病気の特効薬ができれば…等。

 経済産業省、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)、文部科学省科学技術政策研究所などでは、さまざまな技術が何年後に実用化するのかを「技術ロードマップ」等のかたちにとりまとめて、将来の技術開発と生活の変化を定期的に予測して発表しており、今後生活にどのような変化が訪れそうなのかをみることができます。

 それらは、そのときの研究者の英知を集めた結果なのですが、それ以外にも、私たちはSFを中心とした、映画、ドラマ、アニメ、小説、漫画などの創作物から「未来の生活のようなもの」を見ることができます。こういった創作物に含まれる未来の姿は、科学的な根拠にもとづいていない場合、つまり著者・制作者の想像にしかすぎない場合が多く、実現できるかどうかあやしいものがたくさんあります。これらは、私たちの生活や科学技術の進歩に貢献していないのでしょうか。たとえば次の創作物について、発表年と作中の舞台となっている年を意識しながら見てみましょう。

 

■鉄腕アトム(1951年発表、手塚治虫原作)

物語の舞台は2003年。原子融合システムで動く、人と同等の感情をもった少年型の10万馬力(のちに100万馬力)のロボットがこの年に作られ、人間社会で活躍する漫画。
⇒2003年には高度なAIすら実現せず。自律型ではないが工業用等のロボットは多く実現している。

 

■バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2(1989年公開、スティーヴン・スピルバーグ製作総指揮)※1作目は1985年公開。

物語の舞台は1985年。カリフォルニアに住む高校生が親友の科学者が開発した自動車型のタイムマシン(デロリアン)に乗って未来の2015年に飛び、家族に起きるトラブルを未然に防ごうとする映画。
⇒2015年の時点でもタイムマシンは実現していない。おそらく開発もされていない。1989年に描いた2015年の様子として、現在の電気自動車のようにほぼ無音で走行する自動車、3D映画、現在のウェアラブル機器のようなスマートグラス、等が描かれている。

 

(出典)頁末にまとめて記載

 

 例として挙げたもの以外にも漫画「ドラえもん(1970年連載開始、藤子・F・不二雄原作)」で使われる22世紀の道具で、現代に実現したものの検証がWebサイト等で公表されていたりします。こうした作品に出てくる技術について未来予測の当たり外れを判断すれば、まったく外れているものから、当たっておりかなり鋭く描写されているものまで様々なものがあるはずです。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART 2」では、物語の舞台の1985年当時から数えて30年後の2015年、つまり現在が描かれています。その時描かれた「自動で靴紐を結んでくれる靴」は、それまでに実現可能な技術はあったかもしれないのですが、コストが高いことや必ずしも利用者に望まれてはいなかったことが理由で製品化されなかったのではないでしょうか。しかし2015年10月、映画の記念日にあわせてNIKE(ナイキ)は映画で描かれているこの機能を持った靴を限定品として発表し、話題となりました。

 二足歩行型ロボットASIMO(ホンダ)の開発者秘話によると「アトム(のような役立つロボット)を作れ」と社命を受け開発に臨んだようです。また、大学の入学式で理工系学部に入学した学生のインタビューでときおり聞く「●●(映画やアニメの創作物)を実現させようと思って入学しました」といった、一見子どもじみた発言も、将来実用化されたり、その過程の技術が他分野に応用されたりした後に振り返ってみれば、こういった未来を想定した創作物が、科学者や技術者の夢や目標になり、研究開発され実用化されるのだと思うと、これら創作物も科学技術者の原動力としてイノベーションの一端を担っているのではないかと思います。

 そう難しく考えなくても、古い映画などに描かれた未来がはたしていま実現されているのだろうか、現在のどういった点が当時の想像と違うのだろうか、という見方も楽しいのではないでしょうか。直近では東京オリンピックイヤーである2020年に向けて実用的なものから夢的なものまでいろいろなプロジェクト、たとえば「ガンダムGLOBAL CHALLENGE」という2019年に実物大ガンダムを動かす試み等が存在しています。4年後(2020年)、14年後(2030年)にそういったプロジェクトがどうなっているか、振り返る準備をするために資料をとっておいたり、カレンダーに印をつけておくことは、未来の自分への知的な遊びのプレゼントになるかもしれません。(了)

 

参考資料

[1] 経済産業省(2010)「技術ロードマップ」
http://www.meti.go.jp/policy/economy/gijutsu_kakushin/kenkyu_kaihatu/str2010.html)2016.2.23確認

[2] 文部科学省科学技術・学術政策研究所(2015)「第10回科学技術予測調査結果速報の公表について」(http://www.nistep.go.jp/archives/18742)2016.2.23確認

[3] 手塚プロダクション「マンガwiki:鉄腕アトム」『TezukaOsamu.net』
http://tezukaosamu.net/jp/manga/291.html)2016.2.23確認

[4] 「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2」『シネマトゥデイ』
http://www.cinematoday.jp/movie/T0010408)2016.2.23確認

[5] リオ・ケリオン技術担当編集委員(2015)「バック・トゥ・ザ・フューチャーの未来予測 当たりと外れと」BBC NEWS JAPAN
http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-34612563)2016.2.23確認

[6] 藤子プロ・小学館「藤子・F・不二雄 略歴」『ドラえもんチャンネル』
http://dora-world.com/profile/history.html)2016.2.23確認

[7] NIKE(2015)「THE 2015 NIKE MAG」(http://news.nike.com/news/nike-mag-2015)2016.2.23確認

[8] 西坂真人(2002)「“生みの親”が語る「ASIMO開発秘話」」『IT mediaニュース』
http://www.itmedia.co.jp/news/0212/04/nj00_honda_asimo.html)2016.2.23確認

[9] 一般社団法人ガンダムGLOBAL CHALLENGE「ガンダムGLOBAL CHALLENGE」(http://gundam-challenge.com/)2016.2.23確認

[10] 総務省「フィクションで描かれたITC社会の未来像」『情報通信白書平成27年度版』
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h27/html/nc113330.html)2016.2.23確認