コラム

21世紀ノスタルジア ~カセットテープと定額制音楽配信サービスから見る、コンテンツとの戯れ方~

つい先日、約20年ぶりにカセットテープで音楽を聴きました。

2015-11-26掲載

 皆さん、支払料金定額制の音楽配信(サブスクリプション)サービス、使っていますか?各社数百万曲以上を提供し、楽曲を購入するのではなく契約中は無制限に使用する権利を得る、というサービスです。この新しいビジネスモデルをめぐって、すでにSpotify、Apple、Google、Amazon、YouTube、AWA、LINEなどが競争しています。そういった課金方式の潮流はパーソナルな領域にとどまらず、MicrosoftのOffice365のようにオフィス系ソフトでさえパッケージの購入から定額制でライセンスを使用するサービスに移る、というビジネスモデルへと変化しています。

 そんな時代の流れはよそに、つい先日、約20年ぶりにカセットテープで音楽を聴きました。といっても自分でプレーヤーを新しく買ったわけではなく、最近知り合った21歳の若者がラジカセで音楽を聴く愉しみをしつこく吹聴するので、自宅の段ボールに埋もれていた懐かしのカセットテープを彼の家に持ち込んで飲みながらリスニングパーティでもするかね、となった次第です。カセットテープからCDやMD、iPod、そして直近の数百万曲が定額制で聴き放題、とデジタル化こそ進化の証であるという洗礼を経験してきた私世代(30〜40代)には理解できませんが、どうやら一部の若い人はあえて不便なアナログ媒体を使いこなすのがオシャレなようなんですね。

 ガチャリ、と再生ボタンを押し込むと否が応でもその時代の空気に包まれます。小学校の時テレビから流れるアニメのテーマソングをマイクを持ちながら息を殺して録音したカセットテープ、バイト先の先輩がヒップホップやパンク、ニューウェーブまでごちゃ混ぜに編集してくれた「俺が好きな音」のカセットテープ、はじめての彼女のために作ったカセットテープ…等から流れ出た音は当時の記憶が蘇るとともに酒の肴として良いネタを提供してくれました。
 
 驚いたのは次の段階です。私が持ち込んだカセットテープが尽きる頃、彼はラジカセを止めてスマホからワイヤレススピーカーで次々に音楽を流し始めました。カセットテープの音源をヒントに、定額制音楽配信サービスで検索して、類似する音楽やそのルーツをたどり始めたのです。そのプロセスは、私的ノスタルジーそのものであった音楽が、何百万曲も蓄積されているデータベースによってカテゴライズされ彼と共有化されていく心地よさを感じるものでした。

 文脈(コンテクスト)づくりの編集にエネルギーをかけてきたアナログ媒体と、出会ったその場で検索・探索しながら文脈を探していくデジタル媒体とを使い分ける。アナログの手作り感を否定せず、気持ちとして受け入れる。そこに若い世代の自由と可能性を感じました。音楽をはじめとするコンテンツの世界は前進したわけではなく、ただ選択肢が増えただけなのかもしれません。そしてデジタルとアナログは対立するものではなく、互いを補完しあい、かつ刺激しあうものなのかもしれません。そのような世界で我々旧世代はどう戯れるか。急いでバスに乗り込むのもいいでしょうし、あえてバスを1本乗り過ごしバス停の風景を楽しむのもまた一興、なのでしょう。(了)