コラム

特許にこそ市場先読みの力を

現実のビジネスの成功や失敗には、特許における先願主義に起因する問題が横たわっている。

2017-10-02掲載

アナログレコードの人気が再燃している。

人気を支えているのは、若いときにレコードに慣れ親しんだアナログ世代だけでなく、デジタル世代にも広がっており、彼らはデジタルとは違う音質やジャケットのデザイン性等に魅力を感じているようだ(注1)。

ここ10年を見ると、アナログレコードの国内生産枚数も、2009年の約10万枚から年々増加し、2016年には約80万枚まで回復してきている(注2)。音楽業界では、こうしたレコード人気再燃を商機と捉えた動きが活発化しており、株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントでは、2017年度中にアナログレコードの生産及び製造受注を開始する予定である(注3)。

しかしながら、こうした数字も過去の水準からはほど遠い。アナログレコードの生産枚数低下の要因は、言うまでもなく、1980年代に登場したCDにあり、それまでのレコードにとって代わり主流となった。その後も記録メディアの変遷は目まぐるしく、1990年代にはMDなども登場し、さらに2000年代に入ると音楽ダウンロードが始まるなど、筆者も記録メディアの種類に応じて種々のプレーヤーを買い揃えた記憶がある。

こうした記録メディアの歴史をひとつとって見ても、その技術変化のスピードは速い。我々が日々生活する中で使用する製品には、特定の技術なしには実現できないものがあるが、それら製品にはライフサイクル(市場で売れる寿命)があり、製品の盛衰はすなわち技術の盛衰であることを改めて思い知らされる。

一方、こうした技術を発明した人の苦労に報いて独占利益の機会を認める法的手段として特許制度があるが、法律上、特許期間は一部の例外を除いて出願から20年と決められている(注4)。

現実のビジネスの成功や失敗には、上述した音楽記録メディア技術にも見られるように、標準規格化や設備投資の優位性など様々な要因が絡んでくる。そこで、特許期間と市場性のタイミングだけに絞って考えてみると、そこには特許における先願主義に起因する問題が横たわっている。

すなわち、特許法では先に出願したものに対して特許権が与えられるため、特許の出願を遅らせておくと、他者に特許を先に取られてしまうおそれがある。そのため、開発サイドとしては、いち早く特許を出願する傾向にある。しかしながら、開発に成功して特許は出したものの、実際に製品市場が全盛期を迎えるのは特許期間が終了してから、といった事態も現実には起こり得る。かかる場合には、第三者が特許技術を自由に使える状況となってしまう。その結果、営業サイドが期待する独占排他権たる特許権による市場優位性の確保といった効果が十分に得られないといった事態が生じてしまう。

こうした事態は、新規市場を創出するような画期的な技術が開発されたときほど、注意を払う必要がある。例えば、これまで不可能と思われていた技術開発に成功し、パイオニア技術の基本特許を取得したとしても、法規制等の問題や、量産化や市場ニーズ等の要因から、市場化が遅れるケースもある。その結果、市場が成熟するのは基本特許の期間満了後で、その時には基本特許を保有している会社ではなく、関連する特許を後から出願した会社や、量産化技術や市場訴求力等に優れた会社が市場で優位に立っているといった状況も生じ得る。

上述した例に限らず、とにかく早く特許を出したい開発サイドと、一方で市場が大きくなった段階で特許を効果的に活用したい営業サイドとの間にあるギャップ、すなわち特許期間と市場性のタイミングのミスマッチに関する問題は、どの分野でも存在し得るものであり、そこは両者が連携して戦略・戦術を考えるべきである。

その際、両者の間に入るのが、知財部門の役割だ。知財担当者は、製品市場が拡大する時期を見据え、特許の出願タイミングやどのような特許群を構築していくか、開発・営業部門と連携して戦略・戦術を練っていく必要がある。単に特許の知識だけでなく、知財部門にこそ、技術動向や市場動向等を先読みする力も求められてくるのである。


(注1)日本経済新聞2017年7月15日電子版、日本経済新聞2017年7月20日電子版
(注2)一般社団法人 日本レコード協会 HP 「統計情報」 生産実績 年次推移
(注3)株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントHP 2017.6.29 プレスリリース
(注4)医薬品等については、行政処分(許認可等の手続き)を受けるために実施できなかった期間の延長(最長5年)が認められている。